刀語 第十話「誠刀・銓」

舞台は、奥州・百刑場。
とがめの父、飛騨鷹比等始め、反乱の加担者が処刑された場所。
かつて、とがめも住んでいた城のあった場所も今は、荒野。


この地に住まう仙人、彼我木輪廻。
彼?彼女?とともに、繰り返し現れるモチーフは、キンモクセイの花びら?
花言葉をググったら、
「謙遜」「真実」「陶酔」「初恋」とあって――この中だと、「真実」が合うイメージ。


輪廻は、見る者の苦手意識を映し出す鏡であり、
「誠刀・銓」は、そこに映った苦手意識を断つための象徴で、
両者は一対の存在のように思えます。


七花にとっての、苦手意識。
それは過去に味わった敗北であったり、
刀を使えない虚刀流であったりするのかなと。


そんな七花が、彼我木輪廻に重ねて見たのは、いずれも女性で、
うち3人は、一度敗れたことのある相手。
こなゆき、姉、慚愧、迷彩、と再登場した順番も興味深し。
狂犬ver.ではない、素のこなゆきが一番最初なのは、
七花が唯一、敗けたままの相手だからかな、と思ったり。


また、迷彩戦に対して抱いていた、後悔の念や罪悪感というのも、
七花の成長あってのことなのかなと思ったり。
今なら、別の戦い方で、千刀を手に入れられたのでは、
という想いが、どこかで七花を苛んでいたのかなと。


そして、「何のために戦うのか」という答え。
それが、恋とか愛ではなく、とがめのためというのは、
理屈ではなく、より原初的な部分に根ざした、
シンプルでまっすぐな気持ち?
「わかったか、彼我木輪廻」と叫びつつもその声は、
迷っていた自身に対して向けられたものだったのかも。


一方、とがめに課せられた、穴を掘るという行為もまた、
記憶を辿って、苦手意識と向き合い、見つめ直す行為の暗喩?
だから、単に10丈(約30メートル)もくもくと掘り続ければ、
いずれ刀が手に入るといった問題ではなく、
あるいは、七花が代わって掘るわけにもいかず、
とがめ本人が自分で掘らなければならなかったのかなと。


非力なとがめが、あれだけの深さの穴を掘るには、
肉体的には勿論、精神的にも多大な負担があったのではと。
たびたび、フラッシュバックする、
落城の場面、目の前で、父が討ち取られる場面。
穴を掘り進むたび、苦手意識と向き合うたび、
記憶は次第に鮮明に、父の言葉も仔細に思い出していくことに。


輪廻の奥義、「誠刀防衛」を打破するための奇策考案を端緒に、
「誠刀・銓」の正体にまで思い至り、ついに掘り当てたとがめ。
攻撃に重きをおいたままの思考で、発掘を続けていたら、
それが、刀だとは気付かなかったであろうその形、柄と鍔だけの無刀。
――そして、苦手と向き合い続けた末に、
ついに聞くことの出来た、父の最期の言葉。


輪廻のもとを去る際に、
空を見上げてにっこりと笑うとがめが印象的なのでした。
そして、消える森。
あれだけ一生懸命掘っていた穴も跡形も無く。
あたりは、再び何も無い荒野に。


それにつけても、輪廻が銓を埋めた、
その上に飛騨城が建ってしまったという皮肉。
鷹比等が、「歴史の歪み」に気付き、
それを正すため、反乱に手を染めることになったのは、
やはり、銓の毒がもたらした影響だったのかな。


――七花ととがめ、おのおのが抱えていた、
苦手意識と向き合って、克服した今回の話。
これまでとは、また違ったベクトルの
強さや成長というものを培ったように思うのです。


一方で、真庭忍軍も12頭領の残りは、鳳凰ただ1人。
人鳥を討ったのは、やはり、右衛門左衛門?
鳳凰と、右衛門左衛門、これまでの2人の台詞を振り返れば、
互いに知った仲の模様。一体どのような過去が?
また、ここにきて未だ、変体刀の蒐集を諦めた様子もなく。
鳳凰の描く真庭忍軍の「計画」も気になるところ。


残すところ2話。
刀の所在はすでに明らか、1本は否定姫の元にある「銃」
もう1本は、鳳凰が佩いた「鍍」
最も強い毒を持つ変体刀、はたして、どんな力を?
誰と誰がどう対峙して、次の刀は、誰の手に渡るのか。
そして、完成形と完了形2系の変体刀。
虚刀流と四季崎記紀、あるいは、
否定姫との因縁も気になるのです。ちぇりおー。